2025年5月2日、Mrs.GREEN APPLE『天国』がリリースされた。
この楽曲は映画『#真相をお話しします』の主題歌として書き下ろされた。
この楽曲は、今までのミセスのどの楽曲ともちがう。
メッセージ性なんて孕んでない。
常に矢印が自分に向いていて、全く外へ向かってない。
誰を救うためでもない、誰にも知られない内側の内側の真っ暗闇の中での独白を歌っている。
冷え切った苔の生えたコンクリートに触れた肌が徐々に熱を失うような、
地上から数十メートル下の冷たい地下牢で、凍えながら己と向き合っているような、
そんな感覚がした。
でも、ゆっくり向き合って、よくよく読み解いていくと、この『天国』という楽曲は途轍もない壮大なラブソングなのではないか、という結論に至ったのだ。
末恐ろしい。
今回は、Mrs.GREEN APPLE『天国』から私が勝手に感じ取った思いを綴っていこうと思う。

GQ JAPAN2025年6月号
Mrs.GREEN APPLE及び
大森元貴インタビュー掲載
聴き手の身ぐるみを剝がされるような楽曲
私が番宣以外で初めて『天国』を聴いたのは、映画公開初日だった。
とにかく衝撃的だった。
なんなんだ、これは。
感情の爆発。
とんでもない楽曲を聴いた。
ここまで極めたのか、大森元貴は、、、。
興奮と衝撃で頭がくらくらした。
CDTVでMovie.verのテレビ歌唱を経て、『天国』フルバージョンがリリースされた。
普段新曲がリリースされたらもう憑りつかれたようにリピリピな私が、一回聴いて放心状態に陥った。
どうしても続けてもう一度聴くことができなくて、ゆっくりと歌詞を書き写した。
深呼吸を挟んで二回目を聴く。
もっと聴きたい欲と、これ以上聴くことを恐れている心との葛藤。
こんな楽曲は初めてだ。
大森元貴が深く深く潜って身を削ってギリギリで生み出された『Soranji』や『Part of me』などとは別物だ。
とてつもない感情が込められていて、一回じゃとても受け止めたなんて言えなくて、
触れてはいけない部分に、触れてしまったような。
本来ならひたすら隠す、皆が持っている醜悪な部分を、こうしてエンタメとして
大衆に晒してしまうその覚悟が苦しくて居た堪れなくなった。
彼が己の負の感情を曝け出してくれることで、聴き手側もそれぞれが持つその感情を引っ張り出されてしまう。
だから、身ぐるみ剝がされた気持ちになるのだ。
作り手は誰かを救いたいなんて気持ち微塵も思わずに生み出したのだろう。そうであってほしい。
でも、それでいて、聴いた人全ての負の感情を全部集めてまるごと天に持って往ってくれるような感覚もあるのだ。
不思議だ。
こんなにも希望は無いのに、どこか救われる感覚・・・。
負の感情に任せて闇に染まってしまいたい衝動と、その中のほんのわずかな温かさを感じてしまう人としての性。
感情が揺らいでいて、本当は振り切りたいのにそう出来ない自分への苛立ち。
嘆き、哀しみ、遣る瀬無さを孕んだ悲痛な叫び。

音楽と人 2025年6月号
大森元貴ソロインタビュー
楽曲『天国』について語る
『天国』楽曲解釈・歌詞考察
これはあくまでも私しっぽの『天国』解釈だ。
正解は大森元貴しか知り得ない。
それを前提の上で読んでもらえたら嬉しい。
もしも
『天国』Mrs.GREEN APPLE
僕だけの世界ならば そう
誰かを恨むことなんて
知らないで済んだのに どうしても
どうしても
貴方のことが許せない
自分だけの世界なら、誰かを恨むことなんて物理的にも無理だ。
誰かが居るからそんな感情が生まれる。
大森元貴は、いつも“誰かが居るから感情が生まれる”と言っている。
“嬉しさ”があるから“悲しみ”がある。
“楽しさ”があるから“寂しさ”がある。
“貴方がいるから、私にこんな感情が生まれるのだ”と。
「誰かを恨む」
過去の出来事が影響している。
復讐心の動機にもなる。
「恨む」と近い意味の言葉、「憎む」。
その違いを改めて調べてみた。
憎しみは比較的直接的で、対象そのものを嫌う感情。
一方、恨みは、過去に受けた仕打ちや不利益に対して、長く心に残る負の感情を抱くこと。仕返しをしたい気持ちが伴うこともある。
つまり、「憎む」は対象そのものへの嫌悪、
「恨む」は過去の出来事に対する執着という違いがある。
憎むは単発的もしくは定期的なイメージであるのに対して、恨むはとても深く根付いてひたすら永くずっと負の感情に囚われ続けているイメージ。
「貴方のことが許せない」
映画館のエンドロールで初めてこのフレーズを聞いて、ここまでの歌詞は今までのミセスではなかったなと思った。
映画とリンクしているけれども、”大森元貴がこの言葉を口にする”ということに対して、どうしようもなく泣きたくなる。
大森元貴のその口で、その言葉を聞く日が来るなんて思っていなかった。
でもこれはフラグだったんだ。
夜は ただ永い
『天国』Mrs.GREEN APPLE
人は 捨てきれない
見苦しいね
この期に及んで尚
朝日に心動いている
「永い」という漢字を使うことでより一層、終わりが見えないような永遠に続くような時間を感じさせる。
恨んでいるその時間。
じっとりとして嫌な湿度が保たれたような永い時間。
こんなにも貴方を恨んでいて、醜悪に染まり切った自分の中に、
それでも人として生きることを捨てきれない、人間で居ようとしている自分が居ることに気づかされる。
もう外から受け取る如何なるものに対しても心は動かないし、
ただただ暗闇で貴方を恨み続けて死を待つだけと思っているのに
何故まだ、朝日に心を動かされるのだろう。
あぁ、この黒い心にもまだ光を見たいという希望があるのか。
朝日を見て美しいと思える心が残っていたのか。
もうとっくに人として生きることは諦めたはずなのに。
いつ死んでも構わないと思ってただ息をしているだけなのに、
また朝を迎えてホッとしている自分に気づく。
あぁ、まだ人間なんだ。僕は。
「朝日に心動いてる」このフレーズ。
もっくんが漫画読んでた『チ。 ―地球の運動について―』のあるシーンを思い出してしまった。
朝日が苦手だと語っていたドゥラカが、死ぬ間際になって、ついに初めて朝日に感動する。
朝日にはそれだけの力があるのだな。
大森元貴は、これまで何度朝日に心動かされてきたのだろう。
夜通し楽曲制作して、ふと窓から差し込む日の光で朝を知る。
ひどく孤独を感じる深い夜に震えながら、眠るに眠れず迎えた朝の光にやっと安堵して、ふっと眠りに落ちる。
身を削って生み出した楽曲のMVを撮り終えて、メンバーと外に出た際に浴びる朝日の爽快感。
彼もまた繊細だから、朝日の感じ方も細やかで多くの感情を抱くのだろうなと想像してしまう。
朝日を感じる楽曲は『In the Morning』『どこかで日は昇る』もあるね。
抱きしめてしまったら
『天国』Mrs.GREEN APPLE
もう最期
信じてしまった 私の白さを憎むの
あなたを好きでいたあの日々が何よりも
大切で愛しくて痛くて惨め
「抱きしめてしまったら もう最期」
一度愛してしまったら、なかなか嫌いになれない大森元貴。
貴方の黒さではなく、
そんなあなたを愛してしまった私の白さ、純真さ、否、未熟さ、愚かさを憎む。
「貴方」と「あなた」の違い。
何も知らずに僕が大好きだったあの頃の「あなた」。
どうしても許せない裏切りで僕の心を壊した「貴方」。
「大切で愛おしくて痛くて惨め」
このフレーズが心引き裂かれるくらいに痛む。
すごくリアルな感情。
本当に心から愛していた。
あの頃の懐かしさと温かさを思い出す。
そしてその懐かしさや温かさに必ず付き纏う、憎らしいと感じるほど遣る瀬無い気持ち。
哀しみ、虚しさ。
そんな貴方を愛してしまっていた私が惨めで悔しくて、思い出す度に崖から突き落とされる感覚になる。
それでも私は、本当の意味で貴方を嫌いになれないんだ。
写真の中で息をしてる
『君を知らない』Mrs.GREEN APPLE
あの頃の君に会いたい
『君を知らない』のワンフレーズが鳴る。
知りたくなかった。
裏切られる前のあなたとずっと一緒に居たかった。
遣る瀬無い。
惨め。
痛い。
もしも
『天国』Mrs.GREEN APPLE
あの頃、お日様を浴びた布団に
包まる健気な君が
そのままで居てくれれば
どれほど
どれほど良かったのか
もう知る由もない
「あの頃、お日様を浴びた布団に包まる健気な君」
まるで、赤子の描写。
この「君」の捉え方が幾通りにも幅があって、すごい含みを持たせているなぁと感じる。
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